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キッシンジャー氏100歳で訪中 「老朋友」が求める相互進化

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キッシンジャー元米国務長官(左)と会談する習近平国家主席=釣魚台迎賓館で20日、新華社AP 拡大
キッシンジャー元米国務長官(左)と会談する習近平国家主席=釣魚台迎賓館で20日、新華社AP

 米ニクソン政権の国務長官などを務め、ベトナム戦争和平への貢献でノーベル平和賞を受賞したヘンリー・キッシンジャー氏が29日、100歳で死去しました。7月には訪中し習近平国家主席と会談するなど、直前まで勢力的に活動してきました。中国政治や米中関係を長年ウオッチしてきた坂東賢治・論説室特別編集委員のコラム「外事大事」では、この訪中の際、キッシンジャー氏の功績を紹介しています。(2023年7月22付・毎日新聞朝刊の再掲載です)

      ◇

 1972年2月のニクソン米大統領訪中を前に密使として北京に飛んだキッシンジャー元米国務長官は23年にドイツのユダヤ人家庭に生まれた。ナチス台頭で一家が米国に逃れたのが38年。第二次大戦中はドイツ語能力を買われて米陸軍で諜報(ちょうほう)任務についた。

 キッシンジャー氏が現在の米中関係と比較するのが第一次大戦前の英独関係である。英仏に遅れて植民地獲得に乗り出したドイツは海軍力の増強を進めた。

 危機感を募らせたのが覇権国家だった英国だ。英外交官のエア・クロウ卿は07年の覚書でドイツは国際社会での影響力を強化したいと考えているだけだという好意的な見方に反論した。

 例えそうでもドイツは海軍力を強化するし、強大になれば英国と相いれない。覇権を狙っていようといまいと脅威になると結論づけた。外交の関わる余地もなくなり、両国は7年後に戦争に突入した。

 キッシンジャー氏は極めて冷静、現実的な分析と高く評価する一方、米中関係には必ずしも当てはまらないと説く。だが、米国にもクロウ卿と同様に中国の意図に関わりなく台頭自体が脅威と考える人々は少なくない。

 「米中が戦略的な対立状況に陥れば、第一次世界大戦前の欧州に似た状況がアジアでも生じ、互いに……相手の影響力と領域を弱体化、制限しようとする事態が生じる」

 キッシンジャー氏が10年以上前の著書「中国」で示した望ましくないシナリオだ。近年の米中対立の激化はそこに近づいているようにも見える。

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 「我々は老朋友(古い友人)を忘れない」。習近平国家主席は20日、5月に100歳になったキッシンジャー氏に語りかけた。北京の釣魚台迎賓館5号楼。71年の極秘訪中時に滞在し、周恩来首相と会談した建物を選ぶ周到さは中国外交ならではだ。

 半世紀を超える交流でキッシンジャー氏の訪中は100回を超えた。習氏は「二つの100」に触れて「今回の訪中は特別な意義がある」と強調した。52年前と同様に現在の米中関係も「どういう方向に進むかの十字路に立っている」というわけだ。

 米議会も米世論も対中強硬論が高まる中で、米政界きっての親中派とみなされているキッシンジャー氏の影響力は低下している。それでも歴史を踏まえた外交政策を説く賢人は一目置かれた存在だ。

 ブリンケン国務長官、イエレン財務長官に続き、気候変動問題担当のケリー大統領特使が訪中したタイミングで招かれ、現職の閣僚以上の厚遇を受けた。そこに中国の思惑があることは疑いない。

 国務長官経験者のケリー氏には韓正国家副主席が対応し、習氏は会わなかった。李尚福国防相とキッシンジャー氏の会談も異例だった。これまでの訪中で国防相との会談は2回だけだったという。

 米政府が李氏に制裁を科していることを理由に中国側がオースティン国防長官との会談を拒否していることを考えれば、米国にサインを送る狙いは明確だ。李氏は「米国が正確な戦略的判断を下し、両軍関係の健全な発展に協力することを望む」と述べた。制裁解除を受け入れるように改めて求めたといえる。

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 「米中どちらも相手と対抗する代価に耐えられない」。キッシンジャー氏は李氏にこう語り、誤解を減らし、対抗を避けるように求めた。暗に中国に米国と対抗する力はないと忠告したとも受け取れる。中国メディアがそのまま報じていたのも興味深い。

 コロナ禍で落ち込んだ中国経済の景気回復が思うように進まない。若者の失業率も過去最悪を更新した。経済発展を政権の正統性の担保にしてきた中国共産党にとっては社会不安にも結びつきかねない黄信号の点灯である。

 成長の原動力だった貿易も不調だ。6月の輸出は前年より大幅に減り、最大の貿易相手国である米国への輸出は2割以上減った。国内需要の弱さから輸入も減っている。

 現実主義者だった鄧小平氏に比べるとイデオロギー重視に傾く習氏だが、経済動向を無視はできない。米国との対抗を続ける状況にはなく、そろそろ対話の加速にかじを切ることが上策だろう。

 ケリー氏は中国で気候変動問題を担当する解振華特使と長時間の会談を行い、「友好的で実り多い会談だった」と総括した。レモンド商務長官の訪中も近いとみられている。

 キッシンジャー氏は米中関係の「相互進化」を説く。それは「可能な領域では協力しながら自国の課題解決に取り組み、対立を最小限に抑えるように互いの関係を調整すること」だという。対立の管理を目指すバイデン政権のアプローチとも類似性がある。

 習氏にとって11月に米サンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせた訪米が当面の最重要課題になる。ここは「老朋友」の忠告に率直に耳を傾けるしかあるまい。

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